若年層の非正規雇用率と子育てへの影響:男性15-24歳で51%が非正規
日本の若年層における非正規雇用の増加が深刻化しています。1991年から2024年にかけて、男性15-24歳の非正規雇用率は21.4%から51.0%へと2.4倍に増加しました。この雇用形態の変化は、結婚・出産・子育てに大きな影響を与えています。本記事では、こども家庭庁と厚生労働省の統計データをもとに、若年層の雇用状況の変化、経済的不安定さと少子化の関係、そして必要な対策を詳しく解説します。
若年層の非正規雇用率の推移
男性の非正規雇用率
こども家庭庁の統計資料による、若年層男性の非正規雇用率の推移:
15-24歳男性:
- 1991年: 21.4%
- 2000年: 29.8%
- 2010年: 42.3%
- 2020年: 49.6%
- 2024年: 51.0%
増加率: 1991年比で約2.4倍(+29.6ポイント)
25-34歳男性:
- 1991年: 2.8%
- 2000年: 8.7%
- 2010年: 12.9%
- 2020年: 14.3%
- 2024年: 14.8%
増加率: 1991年比で約5.3倍(+12.0ポイント)
女性の非正規雇用率
15-24歳女性:
- 1991年: 20.3%
- 2000年: 34.7%
- 2010年: 47.9%
- 2020年: 55.8%
- 2024年: 56.9%
増加率: 1991年比で約2.8倍(+36.6ポイント)
25-34歳女性:
- 1991年: 25.3%
- 2000年: 31.4%
- 2010年: 35.2%
- 2020年: 30.0%
- 2024年: 30.6%
増加率: 1991年比で約1.2倍(+5.3ポイント)
年齢層別の特徴
15-24歳層の特徴:
- 男女ともに50%以上が非正規雇用
- アルバイト・パートが中心
- 学生の割合も含まれる
25-34歳層の特徴:
- 男性は14.8%と相対的に低い(それでも1991年比で5.3倍)
- 女性は30.6%(出産・育児による離職・パート転換)
- 結婚・出産適齢期の経済的不安定層が増加
非正規雇用の定義と種類
非正規雇用の定義
総務省「労働力調査」における非正規雇用労働者の分類:
- パート: 短時間労働者
- アルバイト: 臨時的雇用
- 労働者派遣事業所の派遣社員: 派遣労働者
- 契約社員: 有期雇用
- 嘱託: 定年退職後の再雇用等
- その他
全年齢層の非正規雇用率
総務省「労働力調査」(2024年平均):
- 雇用者総数: 6,015万人
- 非正規雇用労働者: 2,144万人
- 非正規雇用率: 35.7%
約3人に1人が非正規雇用という状況です。
雇用形態と既婚率の関係
30-34歳男性の雇用形態別既婚率
国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」(2021年)のデータ:
雇用形態別既婚率(30-34歳男性):
- 正規雇用: 56.4%
- 非正規雇用: 18.9%
差: 37.5ポイント
正規雇用の男性の既婚率は、非正規雇用の男性の約3倍に達しています。
年収別の既婚率
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」と国勢調査を基にした分析:
30-34歳男性の年収別既婚率(2020年):
- 年収300万円未満: 25.7%
- 年収300-400万円未満: 43.7%
- 年収400-500万円未満: 54.0%
- 年収500-600万円未満: 61.9%
- 年収600万円以上: 68.4%
年収が高いほど既婚率が高い明確な相関関係があります。
女性の雇用形態と出産
25-39歳女性の第1子出産前後の就業継続率:
- 正規雇用: 約70%(2015-2019年)
- 非正規雇用: 約25%
非正規雇用の女性は、出産を機に離職する割合が高くなっています。
非正規雇用と年収の実態
雇用形態別の平均年収
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和4年)より:
正社員・正職員:
- 平均年収: 約342万円
- 男性: 約387万円
- 女性: 約293万円
正社員・正職員以外(非正規):
- 平均年収: 約224万円
- 男性: 約268万円
- 女性: 約209万円
差額: 約118万円(正規の65%の水準)
年齢層別の収入格差
25-29歳:
- 正規雇用(男性): 約270万円
- 非正規雇用(男性): 約200万円
- 差額: 約70万円
30-34歳:
- 正規雇用(男性): 約320万円
- 非正規雇用(男性): 約230万円
- 差額: 約90万円
35-39歳:
- 正規雇用(男性): 約380万円
- 非正規雇用(男性): 約250万円
- 差額: 約130万円
年齢が上がるほど、正規と非正規の収入格差が拡大します。
生涯賃金の差
独立行政法人労働政策研究・研修機構の試算:
大卒・正社員:
- 男性: 約2億7,000万円
- 女性: 約2億2,000万円
高卒・非正規(推計):
- 約1億2,000万円~1億5,000万円
差額: 約1億円以上
非正規雇用増加の背景
1. 労働市場の構造変化
1990年代以降の変化:
- バブル崩壊後の企業のコスト削減
- 終身雇用制度の崩壊
- 派遣労働の規制緩和(1999年、2004年)
- リーマンショック(2008年)の影響
企業側の理由:
- 人件費の変動費化
- 景気変動への対応
- 即戦力の確保
2. 就職氷河期世代の影響
1993-2005年頃の新卒者:
- 正社員就職が困難
- 非正規雇用からのスタート
- 正社員への転換機会の少なさ
- 40代となった現在も非正規のまま
3. 働き方の多様化
労働者側の理由:
- ワークライフバランス重視
- 短時間勤務の希望
- 副業・兼業の普及
- フリーランス志向
ただし、「不本意非正規」(正社員を希望しながら非正規で働く人)が依然として多い状況です。
4. 教育・訓練機会の格差
非正規雇用の課題:
- 企業内訓練の機会が少ない
- スキルアップの機会不足
- キャリアアップの困難さ
- 正社員への転換が難しい
雇用不安定と少子化の関係
結婚への影響
結婚しない理由(18-34歳未婚者、複数回答):
国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」(2021年):
男性:
- 適当な相手にめぐり合わない: 45.2%
- 結婚資金が足りない: 43.3%
- 結婚後の生活資金が足りない: 31.1%
女性:
- 適当な相手にめぐり合わない: 50.2%
- 自由や気楽さを失いたくない: 33.8%
- 結婚資金が足りない: 29.3%
経済的理由が上位に入っており、雇用の不安定さが結婚を躊躇させる大きな要因となっています。
出産への影響
夫婦の完結出生児数の推移:
- 1977年: 2.19人
- 2002年: 2.23人(ピーク)
- 2010年: 1.96人
- 2015年: 1.94人
- 2021年: 1.90人
夫婦が持つ子どもの数自体も減少傾向にあります。
理想の子ども数を持たない理由:
- 子育てや教育にお金がかかりすぎる: 56.3%
- 高年齢で産むのは嫌だから: 37.8%
- 家が狭いから: 22.2%
経済的理由が最も大きな要因です。
子育て費用と収入の関係
教育費の負担感:
- 年収400万円未満世帯: 約70%が「負担が大きい」
- 年収600万円以上世帯: 約40%が「負担が大きい」
非正規雇用で年収が低い世帯ほど、教育費の負担感が強くなっています。
若年層の意識調査
仕事と育児の両立に関する意識
厚生労働省「若年層における仕事と育児の両立に関する意識調査」(2024年7月公表):
主な調査結果:
- 64.8%の若年層が「子育てを夫婦で分担したい」と回答
- しかし、実現には社会的・職場の支援が必要と感じている
懸念事項:
- 育休取得による収入減少: 52.3%
- キャリアへの影響: 48.7%
- 職場の理解不足: 45.2%
非正規雇用者の育休取得の困難さ
育児休業取得率(2023年度):
- 正社員女性: 約85%
- 非正規雇用女性: 約30%
- 正社員男性: 約30%
- 非正規雇用男性: 約5%以下
非正規雇用では、制度上は育休取得可能でも、実際には取得が困難な状況です。
非正規雇用の社会保障の課題
社会保険の加入状況
厚生年金・健康保険の加入率:
- 正社員: ほぼ100%
- 非正規雇用: 約60-70%(条件により加入)
加入条件(2024年10月以降):
- 週20時間以上勤務
- 月額賃金8.8万円以上
- 2ヶ月以上の雇用見込み
- 従業員51人以上の企業(2024年10月から)
将来の年金額の差
厚生年金の受給額(モデルケース):
正社員(40年加入、平均標準報酬月額35万円):
- 老齢厚生年金: 月約9万円
- 老齢基礎年金: 月約6.5万円
- 合計: 月約15.5万円
非正規雇用(20年加入、平均標準報酬月額20万円):
- 老齢厚生年金: 月約2.5万円
- 老齢基礎年金: 月約6.5万円
- 合計: 月約9万円
差額: 月約6.5万円(年間約78万円)
雇用保険の失業給付
失業給付の基本手当日額:
- 正社員(月給30万円): 日額約6,000円
- 非正規(月給15万円): 日額約3,000円
給付日数: 勤続年数により異なる(非正規は短い傾向)
政府の対策と課題
同一労働同一賃金
働き方改革関連法(2020年4月施行):
- 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差の解消
- 均等待遇・均衡待遇の確保
効果と課題:
- 一定の改善は見られる
- しかし、依然として格差は大きい
- 実効性の確保が課題
正社員転換の促進
キャリアアップ助成金:
- 有期雇用から正規雇用への転換を支援
- 企業に助成金を支給(1人あたり57万円等)
効果:
- 2022年度: 約14万人が正社員転換
- しかし、非正規雇用労働者全体(2,144万人)からすれば限定的
就職氷河期世代支援
就職氷河期世代支援プログラム(2019年開始):
- 対象: 35-54歳(2024年時点で40-59歳)
- 目標: 3年間で30万人の正規雇用化
主な施策:
- 職業訓練の充実
- 就職相談・マッチング支援
- 企業への採用支援
課題:
- コロナ禍の影響で目標達成は困難
- 年齢が上がるほど正社員化は難しい
非正規雇用者への社会保障拡充
社会保険の適用拡大:
- 2024年10月: 従業員51人以上の企業に適用拡大
- 今後も段階的に適用範囲を拡大予定
最低賃金の引き上げ:
- 2024年度全国加重平均: 1,054円
- 2030年代半ばまでに1,500円を目指す(政府方針)
必要な対策と今後の課題
短期的対策
1. 正規雇用への転換支援強化
- キャリアアップ助成金の拡充
- 職業訓練の充実
- マッチング支援の強化
2. 非正規雇用の待遇改善
- 同一労働同一賃金の徹底
- 最低賃金のさらなる引き上げ
- 社会保険の適用拡大
3. 育休取得の促進
- 非正規雇用の育休取得率向上
- 収入保障の充実
- 企業への支援強化
中長期的対策
1. 雇用システムの改革
- 日本型雇用慣行の見直し
- ジョブ型雇用の推進
- 雇用の流動性向上
2. 教育・訓練システムの充実
- リカレント教育の推進
- 職業訓練の拡充
- 企業内教育の促進
3. セーフティネットの強化
- 失業保険の拡充
- 住宅支援の充実
- 生活困窮者支援の強化
4. 若者支援の強化
- 新卒一括採用偏重の見直し
- 第二新卒・既卒者支援
- 正規雇用の入口拡大
企業に求められる取り組み
1. 正社員登用の拡大
- 正社員への転換機会の提供
- 公正な評価制度
- キャリアパスの明確化
2. 同一労働同一賃金の徹底
- 職務内容に応じた公正な賃金
- 福利厚生の均等化
- 教育訓練機会の提供
3. 柔軟な働き方の推進
- 短時間正社員制度
- テレワークの活用
- 副業・兼業の容認
まとめ:雇用の安定化が少子化対策の鍵
若年層の非正規雇用率の上昇は、少子化の大きな要因の一つとなっています:
若年層非正規雇用率の現状:
- 男性15-24歳: 51.0%(1991年比2.4倍)
- 男性25-34歳: 14.8%(1991年比5.3倍)
- 女性15-24歳: 56.9%(1991年比2.8倍)
- 女性25-34歳: 30.6%(1991年比1.2倍)
雇用形態と結婚・出産の関係:
- 30-34歳男性の既婚率: 正規56.4% vs 非正規18.9%
- 年収による既婚率の差: 最大2.7倍
- 正規と非正規の年収差: 約118万円/年
必要な対策:
- 正規雇用への転換促進: 特に25-34歳層
- 非正規雇用の待遇改善: 同一労働同一賃金の徹底
- 社会保障の充実: 社会保険適用拡大、最低賃金引き上げ
- 育休取得支援: 非正規雇用の育休取得促進
- 若者支援の強化: 就職氷河期世代を繰り返さない
雇用の安定化は、経済的な基盤を強化し、結婚・出産の選択肢を広げます。少子化対策として、若年層の雇用の安定化は最優先課題の一つです。
参考情報出典:
- こども家庭庁「こども・若者、子育て家庭を取り巻く状況について」
- 総務省「労働力調査」(令和6年)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和4年)
- 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」(2021年)
- 厚生労働省「若年層における仕事と育児の両立に関する意識調査」(2024年7月)
- 内閣府「少子化社会対策白書」各年版
- 独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計」





