保育士不足の統計データ:2024年有効求人倍率3.54倍と102万人の潜在保育士
日本の保育現場では深刻な人手不足が続いています。保育士の有効求人倍率は全職種平均の3倍以上、保育士資格を持ちながら保育の仕事に就いていない「潜在保育士」は102万人にのぼります。本記事では、厚生労働省やこども家庭庁の統計データをもとに、保育士不足の実態、地域別の状況、不足の原因、そして解消に向けた取り組みを詳しく解説します。
保育士不足の現状:有効求人倍率の高さ
2024年の有効求人倍率
厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、保育士の有効求人倍率は以下のように推移しています:
2024年(令和6年):
- 1月時点: 3.54倍
- 4月時点: 2.42倍
- 年間平均: 約2.5-3.0倍
全職種平均との比較:
- 全職種平均(2024年4月): 1.18倍
- 保育士(2024年4月): 2.42倍
- 全職種の約2倍以上
この数字は、1人の保育士を2~3つの保育施設が奪い合っている状況を示しています。
有効求人倍率の推移
過去の推移:
- 2013年: 1.51倍
- 2015年: 2.18倍
- 2017年: 2.76倍
- 2019年: 3.86倍
- 2020年: 2.94倍(コロナ禍の影響)
- 2021年: 2.04倍
- 2022年: 2.44倍
- 2023年: 2.89倍
- 2024年1月: 3.54倍
2019年に3.86倍でピークを迎えた後、コロナ禍で一時的に低下しましたが、2024年には再び3.54倍まで上昇しています。
有効求職者数の減少
有効求職者数の推移:
- 令和5年(2023年)1月: 16,041人
- 令和6年(2024年)1月: 13,819人
- 減少数: 2,222人(▲13.8%)
保育士として求職する人自体が減少しており、人手不足がさらに深刻化しています。
保育士登録者数と従事者数の乖離
167万人の登録者、64万人の従事者
厚生労働省の統計(令和2年度)によると:
- 保育士登録者数: 約167万3,000人
- 実際の保育士従事者数: 約64万5,000人
- 潜在保育士: 約102万8,000人
つまり、保育士資格を持ちながら保育の仕事に就いていない人が全体の約62%にも上ります。
潜在保育士の増加
潜在保育士の推移:
- 平成27年(2015年): 約85万人
- 令和2年(2020年): 約102万人
- 5年間で約17万人増加
保育士資格を取得しても、保育現場で働かない、あるいは離職する人が増え続けています。
保育所の定員充足率と施設数
2024年の保育施設の状況
こども家庭庁が2024年9月に公表した「保育所等関連状況取りまとめ(令和6年4月1日)」によると:
保育施設数:
- 全国: 39,805か所(前年比+216か所)
利用定員数:
- 全国: 304万4,678人
利用児童数:
- 全国: 270万4,666人
定員充足率:
- 88.8%(前年比▲0.3ポイント)
定員充足率が低下している背景には:
- 少子化による利用児童の減少
- 保育士不足による定員通りの受け入れ困難
- 地域間格差の拡大
保育士確保ができず定員割れの実態
施設数と定員は増加しているにもかかわらず、保育士不足により:
- 定員通りに子どもを受け入れられない施設が増加
- 定員を持て余す施設が地方で増加
- 都市部では保育士不足で入所制限が発生
都道府県別の保育士有効求人倍率
2024年1月時点の都道府県別データ
厚生労働省の統計による、令和6年(2024年)1月時点の都道府県別保育士有効求人倍率:
上位10都府県(保育士不足が深刻):
- 栃木県: 7.90倍
- 広島県: 6.72倍
- 東京都: 4.89倍
- 埼玉県: 4.78倍
- 愛知県: 4.56倍
- 千葉県: 4.42倍
- 大阪府: 4.23倍
- 神奈川県: 4.12倍
- 福岡県: 3.98倍
- 兵庫県: 3.85倍
下位5県(比較的保育士確保しやすい): 43. 和歌山県: 1.78倍 44. 鳥取県: 1.77倍 45. 島根県: 1.73倍 46. 山口県: 1.68倍 47. 高知県: 1.63倍
地域的特徴
大都市圏の深刻さ:
- 東京都: 4.89倍
- 神奈川県: 4.12倍
- 埼玉県: 4.78倍
- 千葉県: 4.42倍
首都圏1都3県は全て4倍以上で、特に保育士不足が深刻です。
地方都市の状況:
- 中国・四国地方は比較的倍率が低い
- しかし、絶対的な保育士数は依然不足
- 待遇改善が進んでいない地域も
保育士不足の主な原因
1. 給与水準の低さ
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和4年)によると:
平均給与(月額):
- 保育士: 26万4,000円
- 全職種平均: 31万1,800円
- 差額: ▲4万7,800円(約15%低い)
年収換算(賞与含む):
- 保育士: 約382万円
- 全職種平均: 約496万円
- 差額: ▲114万円
経験年数別の給与(月額):
- 経験1-4年: 23.9万円
- 経験5-9年: 26.0万円
- 経験10-14年: 28.2万円
- 経験15年以上: 30.8万円
他の職種と比べて昇給幅が小さく、ベテランになっても給与が上がりにくい構造です。
2. 労働環境の厳しさ
主な問題点:
長時間労働:
- 平均残業時間: 月10-20時間(公式統計)
- 実際は持ち帰り仕事も多い
- 書類作成、行事準備、保護者対応など
人手不足による負担増:
- 配置基準ギリギリの運営
- 休憩時間が取れない
- 有給休暇の取得困難
身体的負担:
- 子どもの抱っこ、おんぶ
- 中腰での作業が多い
- 腰痛、膝痛などの職業病
精神的負担:
- 子どもの安全への責任
- 保護者対応のストレス
- クレーム対応
3. 社会的評価の低さ
保育士の仕事に対する社会的認識:
- 専門職としての認識の低さ
- 「誰でもできる仕事」という誤解
- 資格の重要性が軽視される
実際の業務の複雑さ:
- 子どもの発達理解
- 保育計画の立案
- 保護者支援
- 特別な配慮が必要な子への対応
- 食育、保健衛生
4. キャリアパスの不明確さ
昇進機会の少なさ:
- 主任保育士: 園に1-2名程度
- 園長: 園に1名のみ
- 管理職へのキャリアパスが限定的
スキルアップの機会:
- 研修参加の時間確保が困難
- 研修費用の自己負担
- 資格取得支援の不足
5. 女性の職場環境
保育士の約95%が女性であり、女性特有の課題があります:
出産・育児との両立:
- 自分の子どもの保育園探し
- 産休・育休後の復帰困難
- 時短勤務の取りづらさ
体力的な限界:
- 妊娠中の身体的負担
- 年齢を重ねてからの継続困難
保育士不足による影響
待機児童問題への影響
保育士不足は、待機児童問題の主要因の一つです:
- 施設はあるが保育士がいないため入所できない
- 定員まで受け入れられない施設の増加
- 新規施設開設の困難
保育の質の低下リスク
人手不足による影響:
- 一人当たりの子ども数増加
- きめ細かい保育の困難
- 安全管理のリスク上昇
- 保育士の疲弊と離職の悪循環
保育料の上昇圧力
保育士の処遇改善のためのコスト増が、保育料上昇につながる懸念があります。
国の保育士不足対策
1. 処遇改善
処遇改善等加算:
- 加算Ⅰ: 勤続年数や研修実績に応じた加算
- 加算Ⅱ: 職務分野別リーダー等への加算(月額4万円)
- 加算Ⅲ: 副主任保育士等への加算(月額5万円)
令和4年度の処遇改善:
- 給与3%引き上げ(月額9,000円程度)
- 令和4年2月から実施
累積的な処遇改善:
- 2013年以降の処遇改善累計: 月額約5万円相当
2. 保育士確保のための施策
保育士修学資金貸付制度:
- 養成施設に在学する学生への貸付
- 卒業後5年間保育士として勤務すれば返済免除
- 貸付額: 月額5万円+入学準備金・就職準備金
潜在保育士の再就職支援:
- 就職準備金貸付: 40万円
- 2年間勤務すれば返済免除
- 研修受講支援
保育補助者雇上支援:
- 保育士の負担軽減のため
- 補助者の人件費を補助
3. 業務負担軽減
ICT化の推進:
- 補助金による導入支援
- 保育記録のデジタル化
- 保護者連絡のアプリ化
業務の見直し:
- 書類の簡素化
- 行事の精選
- 働き方改革の推進
自治体独自の取り組み
東京都の事例
処遇改善:
- 給与上乗せ補助: 月額8万円程度
- 宿舎借り上げ支援: 月額8万2,000円まで
効果:
- 有効求人倍率は依然高いが、他県より保育士確保しやすい状況
横浜市の事例
待機児童ゼロ達成の取り組み(2013年、2017年):
- 保育施設の大幅増設
- 保育士確保対策の強化
- 処遇改善の独自加算
福岡市の事例
保育士確保特別手当:
- 市独自の給与上乗せ
- 保育士住宅支援
保育園・事業者の取り組み
処遇改善の事例
給与面:
- 初任給の引き上げ(月額20万円以上)
- 賞与の増額(年4ヶ月分以上)
- 各種手当の充実
働き方改革:
- ノンコンタクトタイム(保育時間外の業務時間)確保
- ICT導入による業務効率化
- シフトの工夫による労働時間削減
職場環境改善
休暇取得の推進:
- 有給休暇取得率の向上
- リフレッシュ休暇の導入
- バースデー休暇など
福利厚生の充実:
- 退職金制度の整備
- 健康診断の充実
- メンタルヘルスケア
キャリアパスの明確化
段階的なキャリアアップ:
- 新人保育士
- 中堅保育士
- 専門リーダー・職務分野別リーダー
- 副主任保育士
- 主任保育士
- 園長
各段階での給与テーブルと必要な研修を明確化
保育士不足解消に向けた課題
短期的課題
1. 処遇のさらなる改善
- 全職種平均並みの給与水準の実現
- 月額5万円程度の追加改善が必要
2. 潜在保育士の活用
- 再就職支援の強化
- 短時間勤務の整備
- ブランクへの不安解消
3. 保育補助者の活用
- 無資格者でもできる業務の切り分け
- 保育士の業務負担軽減
中長期的課題
1. 社会的地位の向上
- 専門職としての認識の定着
- 保育の重要性の啓発
- メディアでの肯定的発信
2. 労働環境の抜本的改善
- 配置基準の見直し
- 業務量の適正化
- 持続可能な働き方の実現
3. 養成施設の充実
- 保育士養成施設の定員充足率向上
- 質の高い教育の提供
- 実習体制の充実
4. 男性保育士の増加
- 現在約5%の男性比率を引き上げ
- 男性が働きやすい環境整備
- ロールモデルの提示
今後の展望:2030年に向けて
必要な保育士数の予測
こども家庭庁の試算では:
- 2024年の保育士数: 約64万人
- 2030年の必要数: 約70万人
- 不足予測: 約6万人
保育士確保の目標
政府は「新子育て安心プラン」で以下を目標としています:
- 2024年度末までに保育の受け皿を約14万人分整備
- 必要な保育士の確保: 約4万人
実現のためのロードマップ
~2025年:
- 処遇改善の継続
- 潜在保育士の再就職支援強化
- ICT化の全国展開
2026~2030年:
- 配置基準の見直し
- 社会的地位向上の取り組み
- 持続可能な保育システムの構築
まとめ:保育士不足の現状と解決に向けて
保育士不足は、以下の統計データから深刻な状況にあることが明らかです:
現状の数字:
- 有効求人倍率: 3.54倍(2024年1月)
- 潜在保育士: 102万人
- 実際の従事者: 64万人(登録者の38%)
- 定員充足率: 88.8%
不足の主な原因:
- 給与水準の低さ(全職種平均より月額4.8万円低い)
- 労働環境の厳しさ(長時間労働、身体的・精神的負担)
- 社会的評価の低さ
- キャリアパスの不明確さ
- 女性の職場特有の課題
必要な対策:
- 処遇改善: 月額5万円以上の追加改善
- 労働環境改善: ICT化、業務効率化、配置基準見直し
- 潜在保育士活用: 再就職支援、柔軟な働き方
- 社会的地位向上: 専門職としての認識の定着
- 男性保育士増: 多様な人材の確保
保育士不足の解消は、待機児童問題の解決、少子化対策の推進、そして子どもたちの健やかな成長のために不可欠です。国・自治体・事業者・社会全体での継続的な取り組みが求められています。
参考情報出典:
- 厚生労働省「一般職業紹介状況」(令和6年)
- 厚生労働省「保育士の現状と主な取組」
- こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和6年4月1日)」
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和4年)
- 内閣府「子ども・子育て支援新制度」関連資料
- 各自治体の保育士確保対策資料





